2040年「理系不足・文系余剰」の時代に、文系社会人はどう生き残るか
文系キャリアに技術を足す、現実的な社会人理転戦略
「将来、文系人材は余るのではないか」
「AIやロボットが普及したら、事務職や営業職の価値は下がるのではないか」
「今さら理系職を目指すのは遅いのではないか」
文系出身の社会人であれば、こうした不安を感じる人もいると思います。
実際、経済産業省の「2040年の就業構造推計(改訂版)」では、 2040年に大卒・院卒の理系人材で約120万人の不足が生じる一方、 大卒・院卒の文系人材では約80万人の余剰が生じる可能性が示されています。
また、職種別では事務職が約440万人余剰となる一方、 AI・ロボット等の利活用を担う人材は約340万人不足する可能性があるとされています。
この数字だけを見ると、文系社会人にとってはかなり不安になります。
しかし、ここで大事なのは、「文系だから終わり」ではないということです。
問題は、文系出身であることそのものではありません。
問題なのは、これから需要が減りやすい仕事に、自分のキャリアが固定されてしまうことです。
つまり、これからの文系社会人に必要なのは、文系キャリアを捨てることではありません。
文系キャリアに技術要素を足すことです。
「文系が余る」のではなく、「技術と接続しない文系職」が厳しくなる
まず冷静に見たいのは、経産省の推計が示しているのは 「文系人材が全員不要になる」という話ではないことです。
推計で余剰が大きいのは、事務職です。
AIやロボット等の利活用による省力化に伴い、 事務職は約440万人の余剰が生じる可能性があるとされています。
一方で、不足するとされているのは、 AI・ロボット等を利活用する人材、専門職、現場人材、理系人材です。
つまり、将来厳しくなるのは、単に「文系」という属性ではありません。
厳しくなりやすいのは、次のようなキャリアです。
- 定型的な事務処理だけをする人
- 技術や現場と接続しないホワイトカラー
- 専門性が曖昧なまま年齢だけ上がる人
- AIやシステムに代替されやすい業務だけに依存する人
逆に言えば、文系出身でも、技術、現場、データ、システム、製品、設備、顧客課題と接続できる人は、 むしろ価値が上がる可能性があります。
文系社会人が、いきなり純粋な技術者を目指す必要はない
では、文系社会人は全員、機械設計者、電気設計者、制御設計者、 ITエンジニアのような純粋技術職を目指すべきなのでしょうか。
私は、そうは思いません。
もちろん、純粋な技術職を目指す道もあります。
しかし、社会人になってから、理系大学・大学院出身の技術者と同じ土俵で、 技術の深さだけを競うのは簡単ではありません。
労働政策研究・研修機構、JILPTの調査でも、 文系学部卒で現在文系職種に従事している人のうち、 理系職への職探しを行い就職に至った割合は24.9%で、 75.1%は就職に至っていません。
就職できなかった理由として最も多かったのは、 「未経験では仕事が見つからなかった」で46.2%でした。
参考:
JILPT 調査シリーズNo.253「社会人の学び直し調査―文系専攻者の理転に着目して―」
つまり、社会人理転の壁は「勉強不足」だけではありません。
採用側から見ると、未経験者をいきなり技術職として採るのはリスクが高いのです。
だからこそ、文系社会人が目指すべきなのは、 いきなり純粋技術職のど真ん中に飛び込むことではありません。
まずは、今の文系キャリアと技術職の間にある隣接領域を狙うべきです。
文系社会人の勝ち筋は「技術営業」や「営業技術」にある
文系社会人にとって、かなり現実的な理転ルートが、次のような職種です。
- 技術営業
- 営業技術
- セールスエンジニア
- アプリケーションエンジニア
- フィールドアプリケーションエンジニア
- 技術サポート
- FAソリューション営業
これらは、純粋な営業でも、純粋な設計でもありません。
顧客の課題を聞き、技術的に成立する仕様へ整理し、 社内の設計・製造・購買・品質・外注先と調整しながら、 最終的に売上と利益に結びつける仕事です。
この領域では、文系出身者が持っている営業経験や調整力が武器になります。
たとえば、次のような力です。
- 顧客の話を聞く力
- 提案する力
- 価格交渉する力
- 社内を動かす力
- 相手の立場に合わせて説明する力
- ビジネスとして成立するかを見る力
これらは、技術者だけでは必ずしも得意とは限りません。
そこに、製品知識、図面、仕様、原価、設備、制御、現場、不具合対応の理解が加わると、 かなり強い人材になります。
つまり、文系社会人の勝ち筋は、 文系キャリアを捨てて理系になり直すことではありません。
文系キャリアに技術を足し、営業と技術を越境できる人になることです。
目指すべきは、カタログを売る営業ではなく「仕様を決められる営業」
ただし、技術営業という肩書きなら何でもよいわけではありません。
市場価値が高いのは、単にカタログ品を売る営業ではありません。
たとえば、次のような仕事だけだと、技術職に近づく経験としては弱くなりやすいです。
- 顧客から型式指定で注文を受ける
- 見積を出す
- 納期を確認する
- 価格交渉をする
- 注文を取る
もちろん、これも営業経験としては意味があります。
しかし、将来の理系不足・文系余剰に備えるなら、 目指すべきは、仕様決めに関われる営業です。
具体的には、次のような仕事です。
- 顧客が何に困っているのかを聞く
- どんな動作をさせたいのかを整理する
- 寸法、能力、精度、速度、圧力、流量、制御、設置環境を確認する
- 標準品で対応できるのか、特注が必要なのかを考える
- 技術部門と相談して仕様を詰める
- 原価と利益を見て見積を作る
- 納入後の立ち上げや不具合対応にも関わる
ここまで経験できると、単なる営業ではなくなります。
職務経歴書にも、次のように書けるようになります。
顧客要求のヒアリングから仕様整理、社内設計部門との仕様調整、 見積作成、納入後の技術フォローまで担当。
これは、文系社会人が技術職側に寄っていくうえで、非常に強い経験です。
狙うなら「標準品+カスタム対応」の会社がいい
技術営業キャリアを作るなら、単なるカタログ品営業よりも、 客先ごとの仕様検討やカスタム対応に関われる会社の方が有利です。
ただし、完全な一品一様の特注品だけを扱う会社は、 難易度が高すぎたり、毎回炎上案件になったりするリスクもあります。
一番おすすめしやすいのは、 標準品を持ちながら、顧客ごとにカスタム対応・特注対応を行う会社です。
たとえば、次のような領域です。
- 油圧ユニット
- 空圧装置
- FA装置
- 搬送装置
- 検査装置
- 産業機械
- 制御盤
- ロボットシステムインテグレーター
- 専用機
- 治具
- モーション制御機器
- 特注機械部品
こうした会社では、営業が顧客要求を聞き、 技術部門と相談しながら、仕様を詰める場面が出てきます。
これは、文系社会人が技術要素を取り込む場として相性が良いです。
大手で越境できないなら、中小企業を挟むのも現実的
大手企業では、営業、設計、品質、生産技術、購買、製造、サービスの役割が はっきり分かれていることが多いです。
そのため、営業職の人が、
- 仕様検討にも入りたい
- 図面を見たい
- 現場立ち上げに同行したい
- 技術部門と一緒に提案したい
と思っても、職務分掌の壁にぶつかることがあります。
一方、中小企業では人員が限られるため、営業が技術打ち合わせ、図面確認、 仕様整理、見積、現場確認、不具合対応まで関わることがあります。
これは、文系社会人が技術要素を取り込むには有利です。
もちろん、中小企業ならどこでもよいわけではありません。
単なる御用聞き営業、価格勝負、納期調整、雑務ばかりでは、理転の足場にはなりません。
見るべきなのは、会社の規模ではなく、 営業が仕様決めにどこまで関われるかです。
確認すべきポイントは、次の通りです。
- 仕様打ち合わせに入れるか
- 図面や構成表に触れられるか
- 設計者と一緒に顧客対応できるか
- 選定、見積、原価、現場、不具合対応に関われるか
- 職務経歴書に「技術営業」「仕様検討」「技術サポート」と書ける経験が積めるか
この条件を満たすなら、理転のために一度中小企業を挟むのは現実的な戦略です。
学び直しは「資格を取ること」より「職歴と接続すること」が大事
社会人理転というと、多くの人はまず資格や勉強を考えます。
もちろん勉強は必要です。
JILPT調査でも、転職時に勉強をした人の勉強方法としては「独学」が69.4%と最も多く、 転職のためにあればよかった支援としては「何をどう勉強すべきかなどの助言」が29.5%と最も高くなっています。
ただし、文系社会人にとって重要なのは、やみくもに勉強することではありません。
大事なのは、今の職歴と技術領域をどう接続するかです。
メーカー営業なら、自社製品の次のような情報を理解することが、実務に直結します。
- 図面
- 部品表
- 見積構成
- 加工法
- 材料
- 原価
- 設計工数
- 現場不具合
FAや制御に寄せたいなら、次のような領域を学ぶと接続しやすいです。
- PLC
- HMI
- インバータ
- センサ
- モータ
- I/O
- 電気図面
- 制御盤
- 安全回路
社内SEやDXに寄せたいなら、次のような領域から入るのも現実的です。
- Excel VBA
- SQL
- 業務フロー
- RPA
- ノーコード
- 社内システム改善
つまり、社会人理転は、大学受験のように理系科目を最初から全部やり直す話ではありません。
自分の職歴に近い技術領域から、実務に接続していく話です。
最終ゴールは「技術×営業×管理職」でいい
文系社会人が技術職を目指すとき、 最終ゴールを純粋な設計者や研究者だけに限定する必要はありません。
むしろ、将来の理系不足・文系余剰を考えるなら、 より強いゴールは、技術とビジネスの両方を見られる管理職です。
たとえば、次のような役割です。
- 顧客の課題を理解する
- 技術的に成立する仕様に落とす
- 設計者と対等に会話する
- 原価と利益を考える
- 品質と納期のリスクを見る
- 営業戦略を作る
- 技術部門と営業部門をつなぐ
- 事業として勝てる製品やサービスを考える
こういう人材は、文系出身であることがハンデになりにくいです。
むしろ、文系的なビジネス感覚を持ちながら、技術者と話せることが差別化になります。
文系出身者が、理系出身技術者と技術の深さだけで正面衝突する必要はありません。
戦う場所をずらせばいいのです。
目指すべきは、次のような存在です。
- 純粋な技術者ではなく、技術が分かる営業
- 営業が分かる技術者
- 顧客と設計をつなぐ人
- 仕様と事業をつなぐ人
- 技術と利益を同時に見られる管理職
このポジションこそ、文系社会人にとってかなり現実的な生存戦略です。
まとめ
2040年に向けて、理系人材不足と文系人材余剰が予測されています。
しかし、これは「文系出身者が終わる」という話ではありません。
本当に厳しくなるのは、技術、現場、データ、システム、製品、設備と接続しないまま、 定型的なホワイトカラー業務だけに依存するキャリアです。
文系社会人が取るべき戦略は、文系キャリアを捨てて理系になり直すことではありません。
文系キャリアに技術を足すことです。
特に、次のような経験がある人は、技術領域に近づける可能性があります。
- メーカー営業
- 商社営業
- 事務
- 企画
- カスタマーサポート
- 生産管理
- 品質保証
- 現場管理
こうした経験を持つ人は、技術営業、営業技術、セールスエンジニア、 アプリケーションエンジニアのような隣接職種を狙うことで、技術領域に近づけます。
その際に重要なのは、単なるカタログ営業ではなく、仕様検討、選定、構成提案、 特注対応、現場対応に関われる環境を選ぶことです。
そして最終的には、ビジネス視点と技術視点の両方を持った管理職を目指す。
これが、将来の理系不足・文系余剰に不安を感じる文系社会人にとって、 かなり現実的で、かつ市場価値を作りやすいキャリア戦略だと思います。
文系キャリアを捨てる必要はありません。
文系キャリアに技術を足す。
それが、これからの社会人理転の一つの完成形です。